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ロジスティクス研究部

当研究部では、物流業界を様々な観点から研究し、業界の発展とサービス向上のヒントを発信していきます。

2020.08

【第二回】ーイノベーションの歩みー 物流業界の過去・現在・未来

現在の物流業界では、DX(Digital transformation)という、データやデジタル技術を活用した変革が巻き起こっている。次世代テクノロジーの導入は、消費者の元へ商品をスムーズに届ける現代の物流活動に拍車をかけ、物流の”常識”を覆す新たなイノベーションが起きようとしている。
一方で物流業界の歴史を振り返ると、時代の節目にはこのような数々の”イノベーション”が生まれている。物資供給の効率性や最適化を図る”ロジスティクス”の概念が誕生して以来、物流のスタイルは時代の流れや消費者のニーズに合わせて着実に進歩しているのだ。
過去を振り返り、未来の物流を見据えるーー。今回は”物流のイノベーションの歩み”について共有していきたい。

イノベーションの歩み[前編] 人力から機械へ

次世代テクノロジーを駆使して新たな形を模索している物流業界。しかし起源を辿ると、その姿は現在と大きな差がある。

起源:人力・馬力、そして水運の時代

目的の場所へ、安全に物資を送り届ける--。日本の物流の起源を辿ると、その流れが確立され始めたのは江戸時代と言われている。その頃より、大きな川を使った”水運”が発達し始めたのだ。それまでの輸送方法は人力や馬力を使った陸路であったものの、道は舗装されておらず、人力や馬力では輸送のために多くの日数が必要であった。しかし水運が発達したことにより、長距離の運送や大量物資の運搬が可能になり始めたのだった。

【ポイント】

  • 江戸時代の運送方法は川を使った”水運”が主流
  • 陸路の運搬手段は、”人力”や”馬力”

イノベーション1:輸送の機械化

第一イノベーションが始まったのは20世紀。その当時、各国の輸送方法は完全に”船舶”に依存していた。船舶は大量の物資を運搬できるものの、天候に左右されやすく、場合に応じては迂回しながら航海しなければならないため非効率であった。その中、”鉄道”を使った”陸路”が産声をあげる。鉄道の場合、天候に左右されずに目的地へと物資を届けることができ、運搬に要する時間が航路よりも圧倒的に短く済むとういう強みがあった。欧米などの先進国を中心に鉄道網の整備が進められ、その結果、航路一択であった輸送方法が、鉄道の発達により”航路と陸路の二軸性”へと転換を果たしたのだった。
そしてこの時代ではもう一つ注目すべき運送手段が誕生する。それこそが現代の物流業者が主軸としている運送方法”トラック”だ。内燃式のトラックの登場により、民間の運送力を格段に向上。そして、数多くのトラック運送会社による大量物資の運送が可能となったのだ。

【ポイント】

  • 鉄道の登場:陸路の発達
  • 内燃式トラックの登場:民間の運送会社が数多く誕生

イノベーション2 荷役の機械化

第一のイノベーションが起きたことで、大量の荷物を効率的な方法で運べるようになった。
しかし、ここでひとつ大きな問題が生じる。それが、積み込み・運搬・仕分け等を行うための”人員確保”だ。大量の荷物を運ぶ手段が確立されたものの、その裏側を覗くと、荷役作業は全て人の手で行っており、その作業は多くの人手と日数を必要としていた。しかしこの時、第二のイノベーションにより、荷役作業の体制が一変する。それが”フォークリフト”の実用化だ。
荷役資材であるパレットと共に戦後の物流現場に普及されたことで、荷役作業に大きな変化が生じた。人力で行なっていた荷役作業は機械化され、作業の質を格段に向上させたのだった。さらに1960年代に入ると”海上コンテナ”が登場し、より一層荷役の効率化が図られることとなる。コンテナの存在は積み込む荷物の形状の規格化に繋がり、それにより荷役に必要な日数は10分の1まで削減できたのだ。

【ポイント】

  • フォークリフト・海上コンテナの実用化:作業に必要な人員や作業日数の削減
  • パレット・海上コンテナの登場:荷物サイズの規格化

イノベーションの歩み[後編] 人とテクノロジーの並存

輸送方法に機械が登場してから、実作業の問題は大きく改善された。1970年代以降、ここから先はもう少し踏み込んだイノベーションが巻き起こる。

イノベーション3 管理・処理のシステム化

”輸送の機械化”や”荷役の機械化”によって、物流の実作業は大きな進歩を遂げた。その一方で、情報の管理にはいささか手間がかかっていた。例えば、荷物の入出管理や在庫管理などに関する業務は人が行い、全て書類と台帳によって管理・処理をしていた。しかし1980年代になるとコンピュータが普及し、大手企業から徐々に台帳管理からコンピュータシステムを使った管理体制に移行する。それが、第三のイノベーション”管理・処理のシステム化”だ。ここで、現在も物流業界を支える3つのシステム”WMS”と”LMS”そして”TMS”について触れておきたい。

WMS(Warehouse Management System)
倉庫への資材・商品の入出庫管理や在庫管理などの機能を搭載したシステム。作業中のミス・破損・在庫のチェック漏れを防ぎ、作業の正確性とスピードアップが期待できる。
LMS(Logistics Management System)
WMSに加え物流全体を管理するシステム。物流活動はもちろんのこと、荷主の受注から出荷・請求・売掛管理・発注から入荷・支払・買掛管理など幅広い活動を管理できる。
TMS(Transport Management System)
配車計画や運行管理を支援するシステム。運行スケジュールや車両配置、ドライバーの手配などをシステム上で行い、GPSを使って車両の位置をリアルタイムで把握できる。

これらのシステムの登場により、物を届ける過程での”正確性”が向上した。そして第三のイノベーションにより、今までベテラン担当者に委ねられていた過不足のない在庫保管や配達手配などの業務がシステム化され、担当者への依存度を減らすことが可能となった。

【ポイント】

  • 管理システムの導入:WMS・LMS・TMSなど
  • ”正確性”が飛躍的に向上:担当者への依存度を削減

イノベーション4 物流の装置産業化

100年にもわたる3つのイノベーションを経て、物流がより身近で便利なものに変貌した。しかし、これらをもってしても変えられていない”課題”がある。それは物流業界が”労働集約型”であることだ。今までのイノベーションは特定の作業やプロセスを対象としたものであり、各工程の最終的な操作はすべて”人”に委ねられていた。つまり、いくら変貌を遂げても最終的に物資を運ぶのはドライバーであり、いくらイノベーションが起きても物流業界の鍵は”人間の労働力”であった。
しかし現在、この長年抱えていた問題点をイノベーションによって根底から覆そうとしている。それこそが、第四のイノベーション”物流の装置産業化”だ。
これには冒頭で紹介した”DX”が大きく関わっており、テクノロジーの進歩は物流業界の在り方を根本から変えるに違いない。例えば、自動運転のトラックやドローンを使った無人配達や、AIを使った需要予測に基づく在庫管理など、人が行なっていた作業を全て次世代テクノロジーに移行する。そうすれば、人が稼働する時間を削減でき、長年抱えていた”人間の労働力への依存”から抜け出せるだろう。ネットショッピングが主流になりつつある現代において、物流業界に対する需要は増加し続けている。だからこそ第四のイノベーションによって、省人化しつつ生産性を向上させる”新しい物流の形”が期待されている。

【ポイント】

  • 次世代テクノロジーによる物流プロセスの省人化:自動運転トラックなど

まとめ

次世代テクノロジーを駆使した新たなイノベーションは近い将来に実用化されるだろう。しかし、その新たなイノベーションの背景には、現在の物流を築き上げる数々のプロセスが存在していることを忘れてはいけない。
特に、第三のイノベーションで紹介した各システムは、物流における作業の質を飛躍的に向上させ、物流の需要を高める鍵となった。これは現在の物流業界を支えている重要なイノベーションであると言える。
これらのシステムについてはさらに深掘りしていきたい。次回では”現在の物流業界を支えているシステム”について取り上げていく。

記者紹介

田原 政耶

1992年生まれ、東京都出身。 大学卒業後、大手空間ディスプレイ会社にて施行従事者として、様々な空間プロデュース案件に携わる。現在はベトナムへ移り、フリーライターとして活動中。
実績:月刊EMIDASベトナム版 「ベトナムものづくり探訪〜クローズアップ製造業〜」連載

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