TOP > ロジスティクス研究部 > 第十三回:物流企業におけるSDGsの取り組み

ロジスティクス研究部

当研究部では、物流業界を様々な観点から研究し、業界の発展とサービス向上のヒントを発信していきます。

2021.07

第十三回:物流企業におけるSDGsの取り組み

antwerp-2019990_640

本連載ロジスティクス研究部では「物流とDX」をテーマに、物流業界における*DX事例を特集している。第十三回目となる今回は、通常回と異なり「物流企業における*SDGsの取り組み」を特集する。企業で取り組まれているSDGsには、様々な種類がある。その中でも今回は、物流業界で注視されている「環境問題」に関する事例を紹介したい。

*DX(Digital transformation=デジタルトランスフォーメーション)
データやデジタル技術を活用した業務やビジネスモデルの改革のこと。多くの物流企業では現在、作業の効率化やコストの削減、他社との差別化を図るため様々な取り組みを実施している。

*SDGs(Sustainable Development Goals=エス・ディー・ジーズ)
2030年までに、持続可能でよりよい世界を目指すための国際目標。17のゴール・169のターゲットから構成され、地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っている。これは2015年9月に国連で開催されたサミットで、国連に加盟している全193カ国によって採択された。なお「17のゴール」は資料1の通りである。

資料1:国際連合広報センター SDGsポスター(17のアイコン 日本語版)
https://www.unic.or.jp/files/sdg_poster_ja_2021.pdf

【事例1】EV車の積極的導入(日本郵政グループ)

概要:温室効果ガス排出量削減の対策
企業名:日本郵政グループ
SDGsゴール:
7【エネルギーをみんなにそしてクリーンに】
13【気候変動に具体的な対策を】

概要

日本郵政グループでは、郵便配達車両の3割に当たる3万3000台の車両を、今後5年間で電気自動車(以下:EV車)に切り替える方針を発表した。この発表を行った2021年3月時点では、四輪車約3万台、二輪車約8万台のうち、EV車の数はそれぞれ1500台2000台ほどある。今後は2025年までに四輪車1万2000台、二輪車2万1000台をEV車に転換し、2030年までには全車をEV車に変更する予定だ。

さらに日本郵政グループは2021年4月に、東京電力ホールディングスと提携し、温室効果ガス排出量削減に向けた取り組みを行うことを発表した。具体的には傘下である日本郵便の郵便局に、集配用電気自動車(EV)用の充電器や太陽光発電設備など脱炭素につながる設備を設置する予定である。日本郵政グループでは、2030年までに温室効果ガス排出量を46.2%(19年度比)削減、そして2050年までに排出量実質ゼロを目標としている。

▼SDGsBook(日本郵政グループ)
https://www.japanpost.jp/csr/sdgs/

参考資料
EV車の導入・拡大
https://www.jiji.com/jc/article?k=2021030501197&g=eco
日本郵政が東電HDと提携
https://newswitch.jp/p/27031

 

【事例2】置き配による再配達の削減(Amazon・楽天・ヤマト運輸など)

概要:指定位置へ荷物を届ける非対面サービス
企業名:Amazon・楽天・ヤマト運輸など大手配送企業/Yper(イーパー)株式会社
SDGsゴール:
9【産業と技術革新の基盤を作ろう】
13【気候変動に具体的な対策を】

概要

大手配送業者(ヤマト運輸、日本郵便、佐川急便、Amazon配送各社、Rakuten EXPRESSなど)を中心に、近年「置き配サービス」を実施している。置き配とは、配達員が荷物を手渡しせず、指定された場所に届けるサービスだ。これは再配達の防止を目的とし、配達車の稼働(CO2排出量、従業員への負担)を抑制している。また対面接触が避けられている現在では、この配達方法を好む利用者も増加し、急速に浸透している。

また上記5社を含む大手配送業者では、物流系ITベンチャーYper株式会社が企画・販売する置き配バック「OKIPPA(オキッパ)」と連携し、置き配サービスを提供している。置き配バックOKIPPAとは、固定スペース不要の吊り下げ式宅配ボックスである。防犯ロックが備わったバックで、宅配ボックスのない家でも安心して置き配が利用できるようになった。また上記の大手配送業者ではOKIPPA専用アプリと連携しており、宅配荷物の自動追跡しや配送詳細の自動表示も可能だ。再配達の抑制が期待でき、CO2削減に効果的なサービスである。

参考資料
宅配バックOKIPPA
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000022.000031698.html

【事例3】モーダルシフトの実施(日本通運)

概要:温室効果ガス排出量削減の対策
企業名:日本通運株式会社
SDGsゴール:
13【気候変動に具体的な対策を】
14【海の豊かさを守ろう】
15【陸の豊かさも守ろう】

概要

日本通運株式会社は、2021年3月「海運モーダルシフト大賞」を五十鈴東海株式会社と共に受賞した。この賞はエコシップ・モーダルシフト事業実行委員会(国土交通省海事局が協力)が主催し、海上貨物輸送を一定水準以上利用してCO2削減に取り組んだエコシップマーク認定事業者の中から、特にモーダルシフトに対する貢献度が高いと認めた荷主企業と物流事業者に対して表彰している。日本通運株式会社では昨年に続き、二度目の受賞となった。

モーダルシフトとは、トラック等の自動車で行われている貨物輸送を環境負荷の小さい鉄道や船舶の利用へと転換する取り組みである。これはCO2の排出量抑制やエネルギー消費効率の向上のほか、物流業界の人材不足への対策としても効果的だ。今回日本通運では、CO2削減やドライバー不足等への施策として、無人化が可能なセミトレーラーによるフェリーを利用した海陸一貫輸送を提案した。それを受けた五十鈴東海は、製品輸送の大半は「名古屋港→仙台港(太平洋フェリー運航)」を利用したフェリー輸送に切り替えるモーダルシフトへ踏み切った。陸上輸送距離を減らすことで、CO2削減とドライバーの拘束時間を大幅に短縮し、より安定した輸送を実現している。

参考資料
日通、第2回海運モーダルシフト大賞を受賞
https://www.nittsu.co.jp/press/2021/20210413-1.html
https://www.nittsu.co.jp/jinji/senko/special/project01/

【事例4】再生可能エネルギーを使った物流施設(SGリアルティ)

概要:物流施設の省エネ対策
企業名:SGリアルティ株式会社/SGホールディングス
SDGsゴール:
7【エネルギーをみんなにそしてクリーンに】
13【気候変動に具体的な対策を】

概要

SGホールディングスの傘下であるSGリアルティ株式会社は、埼玉県和光市の物流施設「SGリアルティ和光」において、施設内の購入電力を再生可能エネルギー由来に切り替えることで、施設運営に伴う電力使用により間接的に排出されるCO2の「実質ゼロ」を実現したことを発表した。この施設は、屋根上太陽光発電や蓄電池のほか、全館LED照明などの設備を備えた環境配慮が特徴である。またこれらの取り組みが評価され「*BELS」では、最高ランクを獲得。さらに物流施設では初めて「*ZEB」認証を取得した。

また母体であるSGホールディングスでは、2003年から佐川急便の営業所で太陽光パネルの設置を開始し、自社内利用を進めてきた。2020年時点では、その他の物流施設99ヵ所にソーラーパネル137,808枚を設置している。今後はSGリアルティ和光と同様の事例を検討中で、環境負荷の低減に貢献していく。

*BELS(Building-Housing Energy-efficiency Labeling System):第三者評価機関が認定する建築物省エネルギー性能表示制度
*ZEB(Net Zero Energy Building):室内環境を維持しつつ、消費する年間の一次エネルギーの収支がゼロになることを目指した建物

▼SDGsコミュニケーションブック2020(SGホールディングス)
https://www.sg-hldgs.co.jp/csr/library/

参考資料
SGリアルティ、太陽光設置した和光市の物流施設、CO2排出ゼロに
https://project.nikkeibp.co.jp/ms/atcl/19/news/00001/01192/?ST=msb

まとめ

SDGsの17のゴールに沿って、各企業では様々な取り組みが行っている。また最近ではSDGsの取り組みを冊子にまとめ、ステークホルダーへ配布している企業も多い。やはりこれらの取り組みは、他社との差別化を図るのに最適かつ新たなビジネスを生み出すきっかけとなり得るのだ。SDGsに対し積極的に取り組む企業は、企業価値が向上し、同業他社との競争で優位に立てる。だからこそ各企業はSDGsの目標に対し、実行可能なプランを検討し行動すべきである。まずはSDGsに沿ったプランを実行し、ビジネスチャンスに繋げたり、企業価値の向上に努めてみては如何だろうか。

参考資料
運輸対策における地球温暖化対策
https://www.mlit.go.jp/common/001018156.pdf

記者紹介

田原 政耶

1992年生まれ、東京都出身。 大学卒業後、大手空間ディスプレイ会社にて施行従事者として、様々な空間プロデュース案件に携わる。現在はベトナムへ移り、フリーライターとして活動中。
実績:月刊EMIDASベトナム版 「ベトナムものづくり探訪〜クローズアップ製造業〜」連載

DAISEI VEHO WORKS